山口の自営業60代、退職金代わりの売上1800万円を2015年スイスフランショックで失った話
山口県下関市で零細製造業を営む60代男性Iさん(仮名・退職金がない自営業)が、退職金代わりに貯めた事業資金1800万円をEUR/CHFのキャリートレードに投じ、2015年1月15日のスイスフランショックで全額消失。事業継続にも影響が及んだ。
Iさん(仮名・63歳男性・山口県下関市で零細製造業を経営)から届いた話。退職金代わりに10年かけて貯めた1,800万円を、2015年1月15日のスイスフランショックで失った経緯。
取材は2024年に開始。Iさんは「自営業者には退職金がない、その重みを伝えたい」と希望されたため、地名・業種以外は実情を残してある。
自営業者に退職金はない
Iさんは40歳の時に独立。下関市内で小規模な金属加工業を一人で営んでいる。会社員時代と違って、退職金制度はない。65歳以降の生活費は、すべて自分で貯めなければならない。
2005年頃から、Iさんは事業利益の一部を「退職金代わり」として、専用の銀行預金に毎年100万円〜200万円ずつ積み立てていた。2010年時点で約1,200万円、2014年時点で約2,000万円が貯まっていた。
EUR/CHF のスワップ運用
2011年、地元の取引先(金属問屋の社長・60代)から「ユーロ/スイスフランの売り(EURCHF ショート)でスワップが取れる」と紹介された。
当時のEURCHFは、SNB(スイス中央銀行)が「1ユーロ=1.20スイスフラン」を防衛ラインとして買い支えていた。FX界隈では「1.20より下にしか動かない」「無リスクスワップ」として広まっていた。
2011年9月、Iさんは退職金代わりの預金から800万円をFX口座に移して、EURCHFのショートを建てた。レバレッジ約8倍。
2011年から2014年末までの安定運用
2011年9月から2014年末まで、EURCHFは1.20〜1.23の狭いレンジで推移。Iさんの口座は、評価益込みで一時1,250万円まで増えた。スワップポイントも日々入っていた。
2013年と2014年に、それぞれ500万円ずつ追加入金。総入金額1,800万円。「定期預金より利率がいい、これで老後の生活が安心」と思っていた。
2015年1月15日
2015年1月15日(木)、日本時間18時30分、SNBが緊急発表で「対ユーロのフロア(1.20防衛ライン)を撤廃する」。EURCHFは数分で1.20から0.85付近まで暴落。約30%の急変動。
Iさんは工場で機械を稼働中で、相場を見ていなかった。19時頃、工場を閉めて自宅に戻り、ニュースで状況を知った。
FX口座を確認した時、強制ロスカット執行済み。残高約8万円。当該FX業者がマイナス残高分を放棄したことで、追加損失は免れたが、入金額1,800万円のほぼ全額が消失。
事業への影響
Iさんの本業(金属加工業)の事業資金は、退職金代わりの預金とは別口座で管理していたため、事業継続には直接の影響はなかった。
ただし、Iさんはこの出来事の後、明らかに集中力が落ちて、機械作業のミスが増えた。1か月の操業停止期間を作って、心身の調整に充てた。
「機械作業は集中力が命。ミスをすると指を失う仕事。FXのショックを引きずったまま続けるのは危険だった」
その後の生活
FX口座は2015年1月末に解約。残った8万円は引き出さずに業者の解約手続きで処理。
退職金代わりの貯蓄が事実上ゼロになったため、Iさんは65歳以降も廃業せず、可能な範囲で事業を継続することを決めた。年金(国民年金・月約6万円)と事業収入を組み合わせて生活する計画。
2024年現在、Iさんは63歳で事業を続けている。健康状態が許す限り、70歳までは続ける予定。
振り返り:3つの教訓
1. 自営業者の退職金代わりの貯蓄は、運用しない
会社員と違って自営業者は退職金がない。老後資金の代替として貯めたお金は、運用ではなく定期預金で守る。失えば取り返す手段がない。
2. 中央銀行の介入相場は、いつか撤廃される
SNBの1.20防衛は3年以上続いていたが、撤廃は突然だった。介入相場の反対側に立つ運用は、撤廃時に致命的な損失を被る。
3. 大損後は、本業を一時休止する
大損は本業の集中力を奪う。製造業・運転手・医療職など『集中ミスが命取り』の業種では、休業期間を設けて心身を整えることが結果的に安全。
Iさんの体験から、整理できること
編集者注:以下はIさん個人の体験から整理した視点で、当サイトからの投資助言・売買推奨ではない。投資判断は読者本人の責任で。
心理と反省ポイント
- ロスカットは保険であって敵じゃない。動かす方向を間違えると一晩で口座が空になる。
- 指標発表の前後は流動性が抜けて、設定したロスカット幅を素通りすることがある。
- 深夜の30分だけのトレードは、判断疲れが乗ったまま画面に向かう時間でもある。
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