岩手の60代退職者、退職金の半分1100万円を2015年スイスフランショックで失った話
岩手県盛岡市の元地方銀行員Hさん(仮名・65歳男性)が退職金の半分1,000万円を投じたEUR/CHFスワップ運用。2015年1月15日のスイスフランショックで1日にして1,100万円を失った。「専門知識が過信を生んだ」と語る本人の記録。
「銀行員を37年やって、最後にいちばん高い授業料を払いました」
Hさん(仮名・65歳男性)は岩手県盛岡市在住、元地方銀行員。2014年に定年退職し、退職金2,200万円のうち1,000万円をEUR/CHF(ユーロ・スイスフラン)のスワップ運用に投じた。10か月後の2015年1月15日、その口座は1日で消えた。
「自分は素人ではない」
Hさんは地方銀行で37年勤め、為替も債券も融資審査も経験した。退職前からFXの書籍で研究していたのが、EUR/CHFのショート戦略。当時、スイス中銀(SNB)は「1ユーロ=1.20フラン」の防衛ラインを宣言していて、相場はその少し上に張り付いていた。
防衛ラインがある限り一方向には動かない。だから金利差だけが安全に取れる。個人投資家のあいだで『無リスクのスワップ』と呼ばれていた手法だった。
「中銀介入の構造は、仕事で散々見てきました。だから自分なら、引き際も正しく判断できると思ったんです。いま思えば、その『自分なら』が一番の油断でした」
最初の入金は220万円。書斎のパソコンからだった。数か月かけて計1,000万円まで積んだ。退職金の、ほぼ半分。
順調だった10か月
2014年3月から翌年1月まで、EUR/CHFは1.20〜1.23の狭いレンジで動き続けた。設計どおり、スワップが毎日積み上がる。口座の評価額は1,180万円まで育っていた。
「毎晩、寝る前に口座を見るのが日課でした。今日も何千円か増えてる。銀行の利息の何百倍です。正直、退職後の生活設計が一段明るくなった気でいました」
2015年1月15日、19時のニュース
その日の夕方、SNBは1.20の防衛ラインの撤廃を突然発表する。EUR/CHFは瞬時に1.20から0.85へ暴落。歴史に「スイスフランショック」として残る数分間だった。
Hさんはその時間、自宅で夕食の準備を手伝っていた。相場は見ていない。19時頃、テレビのニュースで異変を知った。
「パソコンを立ち上げる手が、本当に重かった。画面を開いたときには全部終わってました。強制ロスカット済み。残高、12万円」
損失は約1,100万円。相場が飛んだため口座は一時マイナスまで突き抜けたが、業者がマイナス分を放棄したことで、追加の請求だけは免れた。
1,100万円の行き先
| 投入総額 | 1,000万円(退職金2,200万円の約半分) |
|---|---|
| 手法 | EUR/CHFショート・スワップ狙い(SNBの1.20防衛ライン前提) |
| ピーク評価額 | 約1,180万円(2015年1月14日) |
| 結末 | 2015年1月15日 SNB防衛ライン撤廃・強制ロスカット・残高約12万円 |
| 実質損失 | 約1,100万円 |
元銀行員の自己分析
Hさんは取材の中で、自分の判断を淡々と分解してくれた。
「客には『リスクを取るなら全資産の3割まで』と37年言い続けてきました。自分は半分を超えて入れた。SNBが方針を変える可能性も、知識としては持っていた。持っていたのに、ポジションには1ミリも反映させていなかった。専門知識は、過信の材料にもなるんです」
妻には、その夜のうちに伝えたという。いまは投資から完全に離れ、家計を毎月可視化しながら、年金と再雇用の収入で生活を立て直している。
「『無リスク』という言葉を信じた時点で、銀行員としては失格でした。リスクが見えない商品は、リスクがない商品じゃない。それを退職後に、身銭で復習することになりました」
Hさんの体験から、整理できること
編集者注:以下はHさん個人の体験から整理した視点で、当サイトからの投資助言・売買推奨ではない。投資判断は読者本人の責任で。
心理と反省ポイント
- ロスカットは保険であって敵じゃない。動かす方向を間違えると一晩で口座が空になる。
- 指標発表の前後は流動性が抜けて、設定したロスカット幅を素通りすることがある。
- 深夜の30分だけのトレードは、判断疲れが乗ったまま画面に向かう時間でもある。
もう一度選び直すなら
失敗した道具・口座・サービスを今からどう選び直すか。
比較記事で軸を整理してから動くと、同じ罠を踏みにくい。
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被害の状況や生活設計の悩みは、その道のプロに早めに話す方が結果的に軽くなる。