節税目的で買った都内中古ワンルーム、5年で売却査定が1100万円減だった勤務医の話
東京都の40代勤務医Yさんが、職場の同僚から紹介された不動産業者経由で購入した都内中古ワンルーム2戸。『所得税の節税になる』という説明を信じて約4,800万円を投じた結果、5年保有後の売却査定で約1,100万円の含み損が確定した経緯。高所得層向け節税不動産の構造記録。
Yさん(仮名・42歳男性・東京都内の総合病院勤務医)から届いた話。職場の同僚医師から紹介された不動産業者経由で購入した都内中古ワンルーム2戸が、5年保有後の売却査定で約1,100万円の含み損になった経緯。『所得税の節税になる』という説明の裏側にあった構造を、購入5年目に気付いた記録。
同僚医師からの紹介で会った業者
2020年夏、Yさんは40代になって所得税の負担が重くなってきたと感じていた。年収約1,800万円、住宅ローン控除も終わり、ふるさと納税以外の節税策がほとんどない状態だった。
同じ病院の先輩医師(50代)が、医師向け資産運用の話のなかで『不動産投資で節税している』と話した。Yさんが詳しく聞くと、『信頼できる業者を紹介する』と先輩から不動産業者の担当者を紹介された。
「先輩からの紹介だったので、変な業者ではないだろう、という安心感がありました。今思うと、それが最初の判断ミスでした」
業者からの提案内容
業者の担当者(30代男性・営業歴8年)から提案されたのは、都内城南エリアの中古ワンルーム2戸。提示された数字はこうだった。
- 物件1:築12年・約25㎡・2,380万円(家賃9.8万円)
- 物件2:築15年・約23㎡・2,420万円(家賃9.5万円)
- 合計購入価格:4,800万円
- 頭金:100万円ずつ・合計200万円
- 融資:地方銀行系不動産特化ローン(金利1.95%・35年)
- 月々のローン返済:合計13.8万円
- 家賃収入:合計19.3万円(サブリース保証)
- 差額:月5.5万円のプラス
- 節税効果:年間約80万円(不動産所得の赤字計上による損益通算)
『高所得の先生は所得税率33%なので、不動産で会計上の赤字を出して通算すると、年80万円の所得税還付が受けられます』という説明だった。
会計上の赤字という設計
業者の説明では、不動産投資は会計上『建物減価償却費』『修繕費』『管理費』などで意図的に赤字を作れる構造になっていた。
『建物の減価償却は実際にお金が出ていく支出ではないので、キャッシュフローはプラスでも会計上は赤字、という設計ができます。これを給与所得と通算するのが、医師向け節税不動産の基本パターンです』
Yさんは『本当に節税できるなら、月5.5万円のプラス+年80万円の還付で、5年で約500万円のメリットがある』と計算した。
契約から1年目、最初の違和感
2020年10月、Yさんは2戸同時契約。頭金200万円を入れ、ローン4,600万円が実行された。
1年目の運用記録は以下。
- 家賃収入:231.6万円(月19.3万円×12)
- ローン返済:165.6万円(うち利息分89万円)
- 管理費・修繕積立金:30万円
- 固定資産税:18万円
- サブリース手数料:23.2万円(家賃の10%)
- キャッシュフロー:マイナス5.2万円
『月5.5万円のプラス』のはずが、年間ベースでマイナス5.2万円だった。
「業者に『話と違うんですけど』と確認したら、『2年目以降は減価償却費の計上で節税効果が大きくなるので、トータルでプラスになります』と説明されました」
節税効果の計算
1年目の確定申告で、Yさんは節税効果を計算した。
会計上の赤字:約220万円(家賃収入231.6万円 − 必要経費等+減価償却費約350万円)。
所得税還付額:約73万円。
『約束された80万円』に近かったので、Yさんは『3年目以降に減価償却が減るかもしれないが、今のところは想定通り』と思っていた。
3年目から減価償却の減少が顕著に
2022年〜2023年、減価償却費が段階的に減っていった。築年数の経過で建物部分の償却が進み、計上できる減価償却費が年250万円→年180万円→年130万円と推移。
これに伴って節税効果も年73万円→年55万円→年38万円と縮小した。
『業者の説明では『減価償却は当初の効果が大きい』と説明されていたんですけど、減るペースが想定より速かったんです。実質4年目から、月のキャッシュフロー・マイナス+節税縮小で、毎月3万円程度の持ち出しになりました』
5年目、サブリース見直しと売却検討
2025年4月、サブリース会社から家賃見直しの通知が届いた。物件1:9.8万円→8.7万円、物件2:9.5万円→8.5万円。合計で月2.1万円の減額。
同時期、Yさんは妻に状況を打ち明けた。妻はそれまで、不動産投資が会計上の赤字を作っている設計を知らなかった。
『妻に『毎月持ち出しになっていて、家賃も下がる方向で、ローンは35年残っている』と話したら、『売却した方が傷が浅い』と即答されました。妻の判断は早かったです』
売却査定で確定した含み損
2025年5月、Yさんは複数の不動産業者に査定を依頼した。
- 物件1:購入時2,380万円→査定額1,820万円(−560万円)
- 物件2:購入時2,420万円→査定額1,880万円(−540万円)
- 合計:購入時4,800万円→査定額3,700万円(−1,100万円)
5年間の累計節税効果(合計約280万円)と、累計の持ち出し(約30万円)、売却時の含み損(1,100万円)を差し引きすると、トータルの実質損失は約850万円だった。
『節税で得した分以上に、物件価値が下がっていました。ローンを完済する形で売却するために、追加で700万円台の自己資金を入れる必要があります』
節税効果は確かにあったが、物件価値の下落がそれを上回った。月5万円のプラスが、実は月3万円の持ち出しだった構造に気付くのに、5年と850万円が必要だった。
同僚医師との関係
取材時点、Yさんは紹介してくれた先輩医師と病院で顔を合わせる関係を継続している。先輩医師は今もその物件を保有している、と。
『先輩は『不動産で節税している』と話したけれど、実際の含み損や持ち出しの数字は共有していなかったんだと思います。医師同士の節税情報は、成功例だけが共有されて失敗例は表に出ない構造があるな、と感じました』
取材時点の判断
2025年6月、Yさんは妻と相談して700万円台の追加自己資金を入れて2戸とも売却することに決めた。
『損失確定して、ローンも切ります。残った貯金は新NISAでインデックス積立に回します。節税の入口は気を付けないと、5年で1,000万円失うことがあるんだなと、勉強代としては高すぎました』
Yさんの体験から、整理できること
編集者注:以下はYさん個人の体験から整理した視点で、当サイトからの投資助言・売買推奨ではない。投資判断は読者本人の責任で。
心理と反省ポイント
- 節税効果と物件価値下落は対称になりやすい。減価償却で会計上の赤字を作る設計は、実際の物件価値も同時に下がっていることが多い。
- 高所得者向け節税不動産は、紹介経由で広がる。紹介者は成功例だけを共有しがちで、失敗の数字は表に出ない構造がある。
- サブリース2年見直し条項は契約書の重要な部分。月の家賃保証が35年続く前提で計算した収支は、ほぼ確実に崩れる。
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